熊本の農業

スイカ農家からイチゴ農家へ 愛する人に送る イチゴの物語
渡邊 貴文さん / JAかみましき管内

2024.05.16

熊本県のオリジナル品種としても知られる「ゆうべに」イチゴ。
春の収穫シーズンの真っ盛り、
JAかみましき管内の渡邊さんのハウスを訪ねました。

夫婦2人3脚で目指すイチゴづくり

 「昔はイチゴをあまり食べたことがなかったんですよ。」イチゴ作りのきっかけは奥さんが大のイチゴ好きだったこと。結婚当初から奥さんがイチゴを作りたいと話していて休みの度に家族でよくイチゴ狩りに行くようになったそう。「子どもたちが喜んで食べる姿を見て、だんだんイチゴの魅力にのめり込んでいきました。

 イチゴ栽培は家業のスイカに比べると細かな手間や工程が多いのではと心配していましたが、イチゴ狩りに通ううちに、だんだんイメージも具体的になってきて、それで『イチゴ作ろう』となりました。実際に栽培してみると結構奥が深くて学ぶことも多く、イチゴそのものに魅了されています。家族の喜ぶ顔も見たかったし、何よりきっかけをくれた奥さんに感謝しています。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イチゴづくりにぴったりの大きなハウスとの出会い

 父の始めたスイカ農家に生まれ育った渡邊さん。経営を引き継ぐタイミングで、「自分なりの何か、自分の代から始める農作物はないか」と日頃から考えていたといいます。

 そんな時期に出会ったのがイチゴづくりにぴったりのこのハウス。天井が高く広さも充分でしたが、購入当初はそのまま全く使えない状態でほぼ物置状態、中の片付けだけでもかなりの時間を要しました。その後、高設栽培の棚や灌水を引いて入念に整備し、地下水のボーリングも掘り直して水やりや温度管理もある程度自動化できる設備にしたことで、収穫に専念できる環境を作り上げました。

イチゴの収穫期間自体は半年弱ですが、それ以外の期間の苗づくりや土の準備など、ひとつひとつの作業がとても重要です。
土耕栽培のイチゴのハウスも保有していますが、イチゴの作業性を考えると、立ったまま作業できる高設栽培は不可欠です。

「ゆうべに」という品種を選んだ理由

 「ゆうべに」は比較的花数が多いので、収量が取れるというのが一番の理由です。特に年内12月までの単価が高いシーズンに量を確保できるのはとてもいいですね。花数が多い分、収穫の回転が早いため、いかに株を弱らせずに育てていくかが大切です。陽当たりや株の状態を見ながら一株一株の摘果や、古い葉を取り除く葉かぎを行っていきます。

 苗の定植は9月半ばから20日頃。11月から収穫が可能となります。収量が一番多い時期は12月までの年内と暖かくなる3月半ばから春の時期。ハウスいっぱいに白い花が咲き、次々とイチゴが実っていきます。花がつくための大切な受粉作業には、マルハナバチを使用しています

 

 

 

 

 

 

 

 

家族の時間という宝物

 「父の代からそうですが、やはり大切な家族と一緒に、時間を共有しながら仕事ができることが何より大切ですし、僕ら子育て世代が感じる農業の良さでもあると思うんですよね。あくまで個人的な考え方ですが、シンプルに農業をしたいという気持ちが強くて、品種も出荷先も1つに絞っています。JAにその日の出来高で収穫した全量を出荷し、夜は家で子どもたちと家族でゆっくりできる今のライフスタイルが我が家にはとても合っています。」

 奥様の大好きなイチゴを手がけながら、更なる規模拡大へ向けて夢を語ってくれた渡邊さん。次年度は圃場も収量も倍を目指して奮闘するご夫婦の姿が印象的でした。

結婚を機にアパレルから農業のお仕事へ。

 「結婚して主人とスイカづくりも経験してきて、農業の仕事がだんだんと好きになりました。苗づくりから収穫まで手間ひまかかりますが、イチゴは自分から作りたいと思った作物ですし、大好きなイチゴづくりそのものが楽しくて、繊細さが求められる作業も自分にとても向いているなと思います。」

 

《 J Aかみましきイチゴ部会の「ゆうべに」》

 JAかみましきのイチゴ部会は、山都町などの中山間地と、益城町や御船町などの平坦地で2つの部会に分かれています。全部で30数軒あるイチゴの生産者からJAかみましきに出荷された「ゆうべに」は主に関西方面やタイなど海外にも輸出され、一部はJAかみましき管内の直売所でも販売されています。