熊本の農業

苗ができるまで最低3年 情熱が産み出す、
次世代の 「ミディ胡蝶蘭」山本 健司さん / 戸馳島(とばせじま)

2024.11.19

おしゃれなインテリアにもぴったりのミディ胡蝶蘭。
小さめな卓上のサイズ感と、一般的な生花に比べ長く一緒に過ごせるとあって人気を集めています。
今回は、宇土半島と天草の間に位置する全国でも有数の洋蘭の産地、戸馳島(とばせじま)を訪ねました。

 

島の洋蘭栽培のはじまり

 戸馳島は人口約1,000人ほどで、漁港や海水浴場があるのどかな島の風景が広がる花の産地として知られます。海風の温暖な気候が洋蘭やカスミソウを育てるのに適しており、1980年代には洋蘭の出荷量は全国トップクラスになりました。今でこそ「花の島」のイメージがある戸馳島ですが、元々洋蘭栽培は行われておらず、今から約40年前、それまで全く別の作物を作っていた農家数名による洋蘭の共同栽培から始まりました。農家が共同で苗を仕入れてハウスの管理も交代で作業を担当。当時は完全に手探り状態で、生産者自ら全国の花市場を回って取引ができるよう交渉するなど、自分たちの足でゼロから販路を築いてきました。

 

 

 

 

 

 

 

洋蘭の生産グループ「五蘭塾」の発足

 島の洋蘭生産者によって「5年先を見据えた蘭作り」を掲げた「五蘭塾」が発足。全国的にも洋蘭のグループは珍しく、しかも島の中に密集した形は他に例を見ないと言います。結束力の強さを含めて島ならではのアイデンティティは大きいと山本さんは語ります。最盛期20数戸あった五蘭塾も現在は8戸。現在も「五蘭塾」の名前で共同出荷を行い、島の歴史を紡いでいます。

 

国を跨ぐ「リレー栽培」

 ミディ胡蝶蘭は世界規模で言うと200種類を超えます。山本さんはミディ胡蝶蘭を専門に10種類ほどの厳選した品種を栽培。ヨーロッパが大きなマーケットですが原産地は台湾。気候面など最適な苗づくりのため、苗を育てるまでは台湾で行い、仕入れた苗から花が咲くまでを日本で行う「リレー栽培」という手法で栽培が行われています。

 

 

 

 

 

 

胡蝶蘭が高額な理由。苗づくりには最低でも3年かかる

 現地での苗づくりには最低3年かかります。他の作物と大きく異なるのは、数ヶ月で品種や作物を変えられないこと。数年にわたってどの品種をどう手掛けていくか、数年先を読む力が求められるのです。仕入れには大きく3つの手段があります。

 1つ目は現在すでに台湾で育っている苗の中から買い付ける方法。台湾の洋蘭業界では世界の来季のマーケットを予測して、予め育てられている膨大な品種の苗が存在します。

 2つ目はこちらの希望でどの苗を育てるかゼロから現地に依頼をする方法。3年以上待つことになりますが希望の品種を育てられます。

 3つ目は新品種の開発を専門に行う現地の生産者から親株を直接買い上げる方法。世界的に珍しい品種や、今後のマーケットでヒットしそうな品種はそこから生まれることも多いです。ただ新種の株の値段は、1株数十万円〜数百万円と、大きな賭けになります。

 世界に愛好家が多いので、売れ筋やトレンド、商習慣にも注意が必要な上、気圧や気温の調整が難しく、台湾で苗がうまく育っていても日本ではうまくいかないケースなど「リレー栽培」のリスクを乗り切る目利きが重要になってくるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いかにミディ胡蝶蘭を知ってもらえるか。農園内からの改革

 山本さんはメーカーから農業へシフトしたため「シンプルにいえば農業のイメージを変えたかったんです。他の花の生産をやめてミディ胡蝶蘭の栽培に特化する事で、土を使わない形に絞りました。繁忙期にも残業なしで回るように業務を整理。農家ですが、土を使わず従業員にも涼しい環境で快適に作業してもらえますし、お花を買いに来るお客さんと触れ合える場所も作りたかったんです」環境を改善することで質の高い洋蘭栽培に特化することができたといいます。

 

 

 

 

 

 

「お客さんが花を買ってすぐ帰るのが寂しくて、もう少し楽しんでいただけるように、ジェラートショップを敷地にOPENしました」誰でも気軽に訪れることができる開かれた農園、観光スポットとしても人気を博しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

かわいらしい直売ショップを併設。お花のアレンジも多彩でポットや花器も充実。
今年から農園では、母の日や敬老の日に約2,000人が来客する大きなマルシェイベント
も開催しており、多くの方に花のある暮らしの魅力を伝えていきたいと山本さんは語ります。

 

胡蝶蘭の本来の姿

 山本さんが個人的に大好きで育てているというこちら。根が剥き出しのワイルドな見た目ですが、これが胡蝶蘭本来の生態。他の植物より進化した植物とも言われ、土を必要としません。外敵から身を守るため低い位置の土ではなく、高い位置にある樹木の表皮に着生するよう進化してきました。さらに空気中から水分を吸収できるように根は太く空中に迫り出し、木漏れ日程度の日光での生育を好みます。