熊本の農業

角の先から爪の先まで見極めて育てる
「あしきた牛」おいしさの法則 川口 裕平さん / 芦北町米田地区

2025.03.19

2024年12月大阪の南港市場で開催された、
第30回熊本県経済連肉牛枝肉共励会において、
金賞を受賞された川口さんの牧場がある芦北町米田地区を訪れました。

 

小さい頃からずっと牛を飼いたいと考えてきました

 「山々に囲まれたこの環境と、父の手伝いをしていたのもあって、ずっと牛を飼うことを夢見てきました。この仕事以外の選択肢を考えたことはなかったですね。」畜産にどう携わっていくのか、どこでどう学ぶべきなのか、早くから人生設計を決めていた川口さん。畜産に懸ける熱い想いを伺いました。

取材に伺ったのは朝の餌やり時間。どの牛もとても人懐っこく、勢いよく食べる様は圧巻です。

 

いかにいい子牛を見つけて買い付けるか

 肉牛の経営は大きく2つに分けられます。母牛に子牛を産ませて増やし、その子牛を出荷する「繁殖農家」と、子牛を買い付け大きく育てて出荷する「肥育農家」です。川口さんが考えるいい牛を育てるためには、買い付ける子牛の目利きが何より重要になるといいます。基本は食べる牛=大きな牛になるので、食が細くならないように、細かな健康管理が求められます。大きく育つ牛かどうか、長年培った独自の目利きで角の先から爪の先まで見極めて買い付けを行います。

川口さんの1日は毎朝の見回りから始まります。表情や起き上がり方を見ながら
1頭1頭健康状態をチェックしていきます。

 

全国レベルの牛と競う経験を活かして

 市場回りや鹿児島の生産現場を通じて、ハイレベルの牛をたくさん目にしてきました。同じ土俵で競うための育て方を探求した結果、一つの結論として、買い付け時の子牛の骨格と筋肉のつき方に着目しました。肥えた子牛を好む生産者もいれば、考え方や育て方は千差万別ですが、川口さんがたどり着いた仕入先は鹿児島の離島。ここで買い付けた島の子牛は、芦北で大きく育つポテンシャルを秘めているといいます。

川口さんの牧場では牛のストレス軽減のため、買い付け時に付いていたモーリングと呼ばれる鼻輪を外します。牛も人間が分かるので、餌やり一つとっても接し方はとても大切です。

 

1頭1頭、しっかり目で見て世話をする大切さ

 「畜産のIT技術も進み様々な管理技術がありますが、やはり毎日自分の目で見てそれぞれの牛の性格や食欲を把握する微妙なさじ加減が大切です。牛を丁寧に育てることに本気で取り組んでいるからこそ、やっぱり牛のことを365日考えていますね」ペット感覚ではないので、やはり生きている牛への責任と、生業として探求できる面白さがあるといいます。

 

 

 

 

 

 

 

肥育牛の生産の流れ

 時代の変化とともに牛の血統改良も進んでいて、昔は1頭あたり450キロ程度しか取れなかった肉も現在は約520キロと牛も大型化しています。生後8〜10ヶ月の子牛を買付後、肥育牛の生産は大きく3つのステージに分けられます。

① 前期(8〜14ヶ月)  健康管理はもちろん、いかにたくさん食べられる胃袋になるか、いわば「腹づくり」の時期。将来を左右するこの時期が一番大切です。
② 中期(14〜20ヶ月)  体が大きくなる時期で、配合飼料を十分に与えて適切な栄養管理で筋肉とサシを蓄えやすい体づくりをします。この時期に200キロほど大きくなります。
③ 後期(20〜28ヶ月)  ぜい肉を減らし引き締まった体にしながら、さらに体も大きくしていきます。

そして出荷を迎えます。

 

スタッフさんと休憩中の一コマ。特注の薪ストーブを囲んだ和やかな雰囲気が、
牛のリラックスした表情にも表れているようでした。

 

《JAあしきた畜産部会 あしきた牛》

 不知火海と芦北の山々に囲まれた自然豊かな地域で育てられる「あしきた牛」。主に熊本県内や関西方面に出荷されています。現在は4戸の生産者のみが生産し「JAあしきたファーマーズマーケットでこぽん」でも精肉が販売されています。

こちらは経産牛。黒毛和牛として出荷されます。 経産牛とは出産を経験した雌牛のことです。